東京高等裁判所 昭和62年(行コ)72号 判決 1988年6月23日
控訴人(第一審原告)
オリエンタルモーター株式会社
右代表者代表取締役
若林昭八郎
右訴訟代理人弁護士
中町誠
被控訴人(第一審被告)
千葉地方労働委員会
右代表者会長
新垣進
右指定代理人
一河秀洋
同
土田吉彦
同
海老原光韶
同
渡辺賢二
被控訴人(第一審参加人)
総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部
右代表者執行委員長
大池良二
右訴訟代理人弁護士
藤野善夫
同
高橋勲
同
後藤裕造
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人千葉地方労働委員会(以下「被控訴人地労委」という。)が千労委昭和五二年(不)第三号不当労働行為救済申立事件について昭和五六年二月二三日付でした救済命令(以下「本件命令」という。)を取り消す。訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人と被控訴人地労委との間で生じた分は被控訴人地労委の負担とし、控訴人と被控訴人総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部(以下「被控訴人組合」という。)との間に生じた分は被控訴人組合の負担とする。」との判決を求め、被控訴人地労委指定代理人及び被控訴人組合訴訟代理人は、それぞれ控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠は、左に訂正、付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。
1 原判決の訂正
原判決四枚目表五行目「縮少」を「縮小」と、同六枚目表九行目「最少限」を「最小限」と各改め(いずれも以下同じ。)、同一九枚目裏二、三行目「知識等」の次に「を」を加え、同二六枚目裏二行目「片隻語」を「片言隻語」と、同四九枚目裏末行「岩井邦三」から同五〇枚目表一行目「という)」までを「岩井課長」と、同五三枚目表一行目「中村課長」を「当時の本社技術部開発課長中村壽宏(以下「中村課長」という。)」と、同五五枚目表四行目「中村壽宏」から五行目「という)」までを「中村課長」と、同五五枚目裏七行目「実案特許」を「実用新案、特許」と、同五九枚目表一〇行目「受認」を「受忍」と、同七〇枚目表三行目「検討し」を「十分に検討することなく」と各改め、同七四枚目表末行「土浦事業所」の次に「駐在」を加え、同七六枚目表八行目「旨のレポート」を「のレポート」と、同七八枚目表一行目「松谷課長が」を「の松谷課長の」と、同八一枚目表三行目「一七三頁」を「八六頁」と各改め、同九六枚目表三行目「重要である」の次に「と」を加え、同一〇一枚目裏四行目「統合」を「総合」と改め、同一一七枚目表四行目「岡島」の次に「は、」を加え、同一四〇枚目裏三行目「開発」を「開発、」と、同一四八枚目表五行目「環境試険室」を「環境試験室」と、同一五二枚目裏一一行目「その原因、」から末行「しない為」までを「右賃金カットの対象となった不就労の原因、動機については、一切報告を受けていない為」と、同一五六枚目表三行目「岡島一郎」を「岡島」と各改め、同一六三枚目裏七行目「サービス」の前に「オリエンタル」を加え、同一六六枚目表三行目「自身」を「自信」と改め、同一八三枚目裏三行目「機械に」の次に「ついての作業に」を加え、同一八四枚目表末行「オリエンタル工機(株)」を「オリエンタル工機株式会社(以下「オリエンタル工機」という。)」と、同一八六枚目裏八行目「手形」を「手紙」と各改める。
2 控訴人の主張
(一) 本件命令は、労働組合法(以下「法」という。)七条一号に定める「労働組合の正当な行為」の解釈及びその適用を誤るものである。
(1) 被控訴人地労委は、本件において最大の問題点である就業時間中の組合活動の是非について、使用者が認容あるいは許可した場合以外についても、<1>当該組合活動が労働組合の団結権を確保するために必要不可欠であること、<2>右組合活動をするに至った原因が専ら使用者側にあること、<3>右組合活動によって会社業務に具体的な支障を生じないことの三要件を充足する場合には法七条一号所定の「労働組合の正当な行為」に該当するものと解して本件命令を発したが、右のような解釈は、現在の判例理論に反する特異な見解であって、本件命令は取消を免れないものである。
すなわち、目黒電報電話局反戦プレート事件について最高裁判所昭和五二年一二月一三日第三小法廷判決(民集三一巻七号九七四頁)は、日本電信電話株式会社法による廃止前の日本電信電話公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定する趣旨につき、「これは職員がその勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」として、いわゆる職務専念義務につき判示している。そして、この理は私企業の従業員についても異なるものではなく、現に大成観光事件において最高裁判所昭和五七年四月一三日第三小法廷判決(民集三六巻四号六五九頁)は、労働組合が実施した、いわゆるリボン闘争が就業時間中に行われた組合活動であって法七条一号の「労働組合の正当な行為」に該当しない旨判示している。本件で問題となった就業時間中の組合活動は、労働者の労務提供債務を放擲した不完全履行の典型ともいうべきものであって、その正当性を論ずる余地は全くないのである。
(2) しかも、本件において、被控訴人組合の組合員らの就業時間中の職場からの無断離席が右<1><2>の要件を充足していないことは、乙第八号証の二の三一(張替信也作成の報告書)と乙第六号証の二の五三(被控訴人組合提出の昭和四九年組合結成から昭和五四年八月までの組合活動状況と控訴人の対応・賃金カット時間等の一覧表)とを対比すれば、明らかである(甲第一三号証―張替信也作成の比較対照表)。
すなわち、「地本執行委員会出席」「地本専門部会出席」等の職場離席理由は、当該会合が地本全体の問題の会合であり被控訴人組合の問題を議題として取り上げている訳ではないことに徴し、右<1><2>の要件を充足していないことは明らかであり、「日立メディコ集会出席」「柏地区協決起集会出席」「柏地区労オルグ」「地本春斗討論集会出席」「4・7集会オルグ」等の離席理由も、控訴人の問題と直接の関連性がなく、右<1><2>の要件を充足していない。また、「労働委員会出席」は、証人として採用された場合でない限り、組合、支部組合若しくは組合員と会社との間に特別の協定等の合意でもあれば格別、そうでない限りは、ストライキでもない以上、勤務時間内に無断で職場を離脱し、就労しないことは雇用契約上の債務不履行であり許されないものというべきであり、他の公的機関(例えば労働基準監督署)への出頭も同様である。諸々の抗議の必要があれば、当該日の就業時間後に行うことは可能であって、あえて就業時間中に行うべき必然性はない。
(3) 別件不当労働行為申請事件について、被控訴人地労委は、別件命令において、被控訴人組合の組合員らが組合活動をするに至った原因が専ら使用者側にあるものとし、種々の事実を認定したが、控訴人が別件命令を不服として中央労働委員会(以下「中労委」という。)に再審査申立てをしたところ、中労委は昭和六二年五月二〇日付で命令(甲第一四号証)を発し、被控訴人地労委が別件命令において控訴人の不当労働行為を認めた事実のうち、控訴人が昭和五〇年一二月二七日頃と同五一年二月一三日に社内食堂から被控訴人組合所有の備品を撤去した行為、控訴人が同年五月二六日と六月一〇日の二回に亘って豊四季事業所構内に掲記されていた被控訴人組合の組合旗を撤去した行為、控訴人が同年三月一九日総評全国金属労働組合千葉地方本部統一交渉団の入構を拒否した行為、控訴人が昭和五一年夏季一時金の交渉中に従業員に対し受領書を配布して署名押印を求めた行為、昭和五〇年八月頃オリエンタルサービス分会の組合員が近藤次長宅へ招待され同人から「全国金属はアカだ、電気労連の組合の方がよいではないか」等といわれた点については不当労働行為の成立を否定したのである。したがって、本件においては、組合活動をするに至った原因が専ら使用者側にあるものということはできない。なお、控訴人は、中労委が右のとおり控訴人の行為の一部について不当労働行為の成立を否定した点については正当と考えるが、中労委がその余の事実について不当労働行為の成立を認めた点については不服であり、右命令の取消を訴求し、右訴訟事件は現在東京地方裁判所に係属中である。
(二) 本件命令は法二七条二項の「継続する行為」の解釈及びその適用を誤るものである。
(1) 本件命令は、田中のボールベアリングの寿命試験の担当替えは昭和五一年三月、「資料と整理と管理」についてのレポート提出は同年四月であり、酒井の治(ママ)工具再生研磨の集中管理の担当替えは同年三月であり、大池のUL規格申請業務からの担当替えは同年三月であり、いずれも本件救済命令の申立てがされた昭和五二年六月二九日には、すでに一年以上経過していた。しかるに、本件命令は、不当労働行為意思の継続を理由に法二七条二項の「継続する行為」に該当するものとしている。
(2) しかし、右の解釈は誤りである。
第一に、一般に解雇や配転が不当労働行為事件として取り扱われる場合、その発令行為自体が完結した一個の行為として取り扱われるのであって、発令行為を取り消して原状に回復しない限り右行為は終了しないということにはならない。仮に継続性が肯定されると、何年も前の組合員の解雇や配転も、労働委員会で取り扱わなければならなくなり、法が申立期間を設けた趣旨が失われる。
本件における一部業務の変更命令は、配転とまさに同種の行為であって、発令とともに一個の行為としてすでに完結しており、その継続性を問題とする余地はない。
第二に、本件命令は「継続する行為」の概念に専ら不当労働行為「意思」の継続性・同一性を持ち込んでいる点で誤りである。本来、申立期間徒過による却下の判断は、審問手続に入る前に行われるべきものとして予定されているのであって、申立てを却下されないために何らかの事実なり主張なりを証明しなければならないような事項は、およそ法が予定した「継続した行為」概念とはなじまないのである。したがって、「継続する行為」の概念に、単一の不当労働行為意思に発しているか否かという、審問手続による審理を必要とする「意思」の要素を持ち込んだ本件命令は誤りである。
(三) 被控訴人地労委が本件命令主文第二項において掲示を命ずる文書は、「陳謝文」という標題で、文中に「当会社は・・・深く陳謝する」との文言を入れることを義務づけている。このように控訴人に対しその意に反して陳謝、誓約を強制することは、憲法の保障する内心の自由を侵害することは明らかである。
すなわち、憲法一九条で保障された思想・良心の自由には、事物に関する是非弁別の内心的自由のみならず、かかる是非弁別の判断に関する事項を外部に表現し、また、表現しない自由(いわゆる「沈黙の自由」)も包含される。ところで、およそ思想・良心が内心状態にとどまる限り、それ自体としては、社会に害悪を及ぼすことはないから、公共の福祉による制限も許されずその保障は絶対的なものである。沈黙の自由は、思想・良心の事柄を内にとどめる自由であるから、思想・良心の事柄の外部への表明による社会的影響を予定する表現の自由(憲法二一条)等に比較して、はるかに消極的・受動的・防衛的であり、それだけに絶対に侵されてはならない精神的自由の最低限だといえるのである。したがって、本件命令が控訴人の意に反する陳謝・誓約を強制することは、沈黙の自由を侵害し、憲法一九条に違反することは明白である。
また、本件命令主文第二項の報復的、懲罰的性格は原状回復の趣旨を逸脱し、労働委員会の裁量を超えるという点でも違法である。
3 被控訴人組合の主張
(一) 控訴人の「労働組合の正当な行為」に関する見解は独自の見解にすぎない。
(1) 本件は、控訴人が被控訴人組合の組合員たる従業員らに対して行った仕事上の処遇が差別的処遇・不利益取扱に該当し、それ故に法第七条一号・三号所定の不当労働行為が成立するか否かが問題となっている事案であるところ、控訴人の引用する「目黒電報電話局反戦プレート事件」の判決は、戒告処分が争われた事案であり、「大成観光事件」の判件は、リボン闘争を行った者に対する減給、譴責処分が争われた事案であって、いずれも懲戒処分の当否が直接の争点になったのに対して、本件の重要な争点は、従業員一〇名に対する次の処遇が正当であったか否かの点である。
<1> 執行委員石塚―一人壁に向って封筒の宛名書き
<2> 同田中―数か月間「しおり」の電話番号の局番訂正作業、その後は「感想文」提出
<3> 執行副委員長久保―「しおり」の電話番号の局番の訂正作業、その後は封筒に宛名のシール貼り
<4> 執行委員岡島―一か月新入社員のしおりを読んで感想文書き
<5> 同池田―仕事とは自分で探すものだといわれて、全く仕事が与えられなかったこと
<6> 同岡井―仕事を与えられずに一か月間読書
<7> 同和家―四〇日間の仕事の空白、その後は座金(ワッシャー)等の袋づめ作業
<8> 分会執行委員長酒井―壁に向ってバー材裁断作業、守衛室で一人でやすりかけ作業
<9> 書記長金子―リーダーからはずされて、一転して部屋の片隅で単純作業
<10> 執行委員長大池―五か月間、上司が学生時代に購入した英書の和訳
したがって、控訴人の引用する判例は、いずれも本件に適切ではない。
(2) 次に、個々の組合員の組合活動の内容が不明確であるとか団結権を確保するために必要不可欠なものではないとする控訴人の主張も失当である。
すなわち、個々の組合員が組合活動で離席している時間については全て控訴人より賃金カットされ、また、賞与等の査定においても全て不利益に扱われてきており、個々の組合員にとっては就業時間中の組合活動による離席は、直ちに賃金の減収につながり、必要不可欠なものでない限り安易には行えない立場にあり、このような立場の個々の組合員が行った組合活動による離席は当時としては正にやむをえないものであった。
また、組合活動が上部団体にかかるものであるとか地域的な支援活動にかかわるものであるから、必要不可欠なものではない旨の控訴人の主張も失当である。すなわち、控訴人のように再三に亘り第三者機関による命令・決定や是正勧告等を受け容れない者に対しては、地域的、社会的な非難は組合活動においても重要なものとなっており、地域的な要請に応えるべきこれらの支部組合の活動は時として必要不可決なものである。
(3) 別件不当労働行為救済申立事件についての中労委の命令(甲第一四号証)は、被控訴人地労委の別件命令(乙第六号証の二の四六)のうち僅かに陳謝文の一部を訂正したのみで、基本的には初審の別件命令を維持しているのであり、また、原判決が引用した被控訴人地労委の認定した一〇個の事実のうち四個の事実について不当労働行為の成立を認めなかったにとどまり、基本的な重要な事実認定及び判断は全く覆えされていない。
(二) 法二七条二項の「継続する行為」についての控訴人の主張は独自の見解であって失当である。
(三) 謝罪命令が憲法一九条に違法する旨の控訴人の主張も争う。
控訴人は、被控訴人組合の組合員に対し仕事上の差別的処遇をし、被控訴人組合との団体交渉を拒否するなどの不当労働行為を繰り返し、憲法二八条及び一三条にもとる行為を重ねているのであって、控訴人の違憲論は失当である。
4 当審における証拠関係は、本件記録中の当審書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当審も、控訴人の本訴請求は、これを失当として棄却すべきものと判断するが、その理由については、左に付加、訂正、削除するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。
1 原判決一九〇枚目表六行目「成立に争いのない」の前に「前掲乙第四号証の二五の四、」を、裏四行目「助言を」の次に「する地位を」を各加え、末行「六号証の二の四」を「六号証の二の四〇」と改める。
2 同一九四枚目裏九行目「乙第四号証の三の二」を「乙第四号証の三の三」と、同一九六枚目表末行「岡井」を「岡島」と各改める。
3 同一九八枚目裏一行目「信用し難い。」の次に、行をかえて次のとおり加える。
「12 なお、命令書第1の3のその余の事実については、本件弁論の全趣旨により当事者間に争いがないものと認められる。」
4 同二〇四枚目裏四行目「解する。」の次に、行をかえて次のとおり加える。
「通常の私企業における労働者の職務専念義務は、これを厳格に把握して精神的肉体的活動の全てを職務遂行に集中すべき義務と解すべきではなく、労働契約上要請される労働を誠実に履行する義務と解すべきであるから、労働者は就業時間中は使用者にいわば全人格的に従属するものと解すべきではなく、労働契約上の義務と何ら支障なく両立し使用者の業務を具体的に阻害することのない行為は、必ずしも職務専念義務に違背するものではないと解するのが相当である。控訴人が当審における主張(一)(1)で引用する最高裁判所昭和五二年一二月一三日第三小法廷判決・民集三一巻七号九七四頁は、日本電信電話株式会社法による廃止前の日本電信電話公社法三四条二項の「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない」とする職務専念義務違反による懲戒事案についての判例であって、社会性及び公益性の強い公社職員についての特別の職務専念義務に関するものであり、最高裁判所昭和五七年四月一三日第三小法廷判決・民集三六巻四号六五九頁は、ホテル業を営む会社の従業員で組織する労働組合が実施したいわゆるリボン闘争がホテル業務という職務の性質に照らし、当該組合員たる労働者の職務を誠実に履行する義務と両立しないが故に正当な組合活動とは認められなかった懲戒事案についての判例であって、いずれも本件とは事案を異にし、組合活動の正当性についての前記解釈は控訴人引用の判例に牴触するものではなく、当審におけ控訴人の主張(一)(1)は採用することができない。」
5 同二〇四枚目裏六行目「第六号証の二の四六」の次に「、成立に争いのない甲第一四号証」を加え、一一行目「人事移動」を「人事異動」と改め(以下同じ。)、同二〇六枚目表二行目「一一日」を「一九日」と、七行目「夏季」を「年末」と各改め、八行目「及び同年夏の一時金」及び、一〇行目「昭和五〇年」から裏一行目「言われ、」までを各削除し、四行目「言われた等の」を「言われ、」と改め、一一行目「乙第六号証の二の五三」の次に「、前掲甲第一四号証」を加える。
6 同二〇七枚目表九行目「解される。」の次に、行をかえて次のとおり加える。
「中労委の再審査命令においては、右(1)ないし(10)のうち、(3)、(6)、(7)の事実はあったが不当労働行為にはあたらないものと判断され、(10)については被控訴人地労委が認定した事実の一部を認めず、右の限度で事実を認定したうえ、不当労働行為にあたるものと判断したが、初審の被控訴人地労委の別件命令においては、右(3)、(6)、(7)についても不当労働行為の成立が認められているのであって、被控訴人組合の結成以来の労使関係の前記経緯に鑑みれば、右(1)ないし(10)の事実((10)については被控訴人地労委が認定した事実の一部)が存在するのであるから、客観的には右(3)、(6)、(7)の控訴人側の行為が不当労働行為に該当しないとしても、控訴人側の一連の行為に対抗するための田中の組合活動は正当な行為と解すべきことに消長はない。
そして、就業時間中であっても例外的に組合活動が正当として許容されるべき前記要件を充足している場合には、当該組合活動が上部団体の会議への出席等使用者との団体交渉に直接関係のない行為であっても正当な組合活動と解すべきである。なお、以上の点は、後記の他の組合員についても同様である。
したがって、当審における控訴人の主張(一)(2)(3)も理由がない。」
7 同二〇八枚目表三、四行目「該当する。」の次に、行をかえて次のとおり加える。
「法二七条二項の継続する行為に該当するか否かは、行為の同種性、行為の時間的継続性及び客観的諸事実から推認される意思の同一性を総合して判断すべきものである。右と見解を異にし、意思の継続性・同一性を考慮に入れるべきではないとする当審における控訴人の主張(二)は採用することができない。なお、この理は、他の組合員についても同様である。」
8 同二一八枚目裏五行目「オブソリッズ」を「オブ・ソリッズ」と改め、九行目「さらに」の次に「命令書」を加え、同二一九枚目表四行目「移動」を「異動」と、同二二〇枚目表末行「二〇分」を「二六分」と各改める。
9 同二二六枚目表九行目「責さなかった」を「果さなかった」と、裏四行目「責していなかった」を「果していなかった」と、同二二八枚目表三行目「一一の三」を「一一の二」と各改める。
10 同二三二枚目表八行目「前掲」の次に「乙」を加える。
11 同二三六枚目表五行目「前掲」を「成立に争いのない」と改める。
12 同二五二枚目表五、六行目「岡田」を「控訴人」と改める。
13 同二五四枚目表五行目「解する。」の次に、行をかえて次のとおり加え、六行目「六」を「七」と改める。
「六 単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度の謝罪を命ずることが憲法一九条に違反するものではないことは最高裁判所の判例とするところであり(最高裁判所昭和三一年七月四日大法廷判決・民集一〇巻七号七八五頁)、当裁判所としても右見解を変更すべき理由はないものと考える。本件命令の主文第二項は、その内容に照らし、単に事態の経過を述べ陳謝の意を表明するに止まる程度のものであって、何ら控訴人の思想・良心ないし沈黙の自由を侵害するものではない。
また、本件命令の主文第二項が報復的懲罰的であって労働委員会の裁量権の範囲を逸脱するものとも認められない。
したがって、当審における控訴人の主張(三)も採用することができない。」
二 以上の次第で、控訴人の本訴請求は、これを失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中村修三 裁判官 篠田省二 裁判官 関野杜滋子)